2025年10月31日(金)にASDoQ大会2025を開催しました。例年通り、オンラインと名古屋大学でのハイブリッド形式で実施され、約70名の参加者のうちおよそ3分の2が現地に来場。午後のポスターセッションまで、活発な議論が交わされる熱気あふれる大会となりました。
午前中の第1部では、株式会社ハーティネス代表の高橋慈子氏を講師に迎え、伝わる文書を作るための基本と実践について講義いただきました。
高橋氏からは、近年の技術文書には「簡潔で理解しやすい」だけでなく、「国際的で多様な読み手にも配慮したアクセシブルな表現」が求められることが説明されました。「伝わる文書を作るには、まず読み手を知ること」――そのために有効なメソッドとして、「ペルソナ設定」による読み手の可視化方法が紹介されました。さらに、「編集業務におけるAI活用の可能性」にも触れられ、AI時代における新しい文書制作の方向性を示唆する内容でした。
参加者からは多数の発表・意見が寄せられ、グループワークを通じた交流も盛り上がりました。高橋氏の丁寧な解説により、多くの参加者がテクニカルライティングの基礎を実践的に学ぶことができました。
(チュートリアル:高橋氏)
午後からの第2部講演会の冒頭では、ASDoQ大会プログラム委員長の栗田太郎氏より、大会の見どころと講演者の紹介が行われました。特に、講演者の渡邉雅子氏が「山本七平賞」を受賞されたことが紹介され、会場からは大きな拍手が送られました。
午後の最初の講演は、名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授の渡邉雅子氏を迎え、論理的思考とコミュニケーションについて講演いただきました。
渡邉氏からは、アメリカ留学時に直面した論文執筆の苦労を起点として、研究を通じて得た知見が紹介されました。それは、「相手に理解してもらうためには、形式論理ではなく“本質論理”が重要である」という考えです。本質論理とは、「読み手にとって必要な情報が、期待する順番で並んでいること」。 アメリカでは「結論先行型」、日本では「時系列型」の思考が主流であるため、日本式の説明をそのままでは相手に伝わらない――この文化的差異が「論理の型」の違いとして解説されました。論理・合理性・価値観をセットで共有し、目的に対して合意形成を図ることの重要性も強調されました。
また最後に、「他者の意図を汲んで行動できる日本人は非常に高度な認知能力を持つ」と述べられ、日本人の特性を肯定的に再評価するメッセージで締めくくられました。
(講演1:渡邉 雅子氏)
続いての講演は、株式会社インディードリクルートテクノロジーズの大島將義氏を迎え、高速に変化するWebサービス開発とAI技術の導入による開発プロセスの変革について講演していただきました。
Webサービスの価値は数ヶ月で陳腐化するため、短期間で価値あるものを生み出すアジャイル開発の重要性が強調されました。AI導入の実践例として、ソフトウェア生成とコーディング支援のハイブリッド活用が紹介され、開発対象に応じてAIを使い分ける柔軟なアプローチの必要性が示されました。
さらに、AI活用が進むことでチーム構成や品質保証のあり方が変わり、「AIが知らないことを理解できる人間のスキル」の価値が高まる点にも触れられました。AIを効果的に活用するためには、ソフトウェアエンジニアリングそのものを再定義する必要があるとの指摘も印象的でした。
(講演2:大島 將義氏)
続いて、ASDoQ運営委員の山本雅基氏より、2025年9月5-6日に京都で開催したASDoQサマーワークショップ2025の活動報告を行いました。
山本氏からは、ASDoQサマーワークショップの成果として、文書品質モデルをExcelからMarkdown/YAML形式に刷新し、生成AIを活用して評価・校正を行った活動について報告がありました。具体的には、文書品質モデルの理解促進を目的とした教材作成、悪文サンプルの作成、AIによる品質診断の試行、そしてAIと共同で文書を作る「バイブライティング」への挑戦など、多面的な活動が行われました。
生成AIの性能向上と活用ノウハウの蓄積により、前年よりも明確な成果が得られたことが報告されました。
続いてのパネルディスカッションでは、本大会の講演者4名をパネリストに迎え、生成AI時代の文書と品質保証をテーマに議論が行われました。
以下に主な議論の内容を記載します。
- AIの品質保証:要求仕様ベースのテストはAIには通用しない。多様性やランダム性を持つテスト設計が必要。
- 品質保証の専門家の必要性:判断を担う専門家が不在だと品質保証は崩壊する。
- ブラックボックス化リスク:コンパイラのように一般化が進めば、問題は別の形に移行する可能性がある。
- 人材育成:AIを使わない現場設計は人材成長を阻害する。教育と職能構造の再設計が必要。
- AIは創造できるか?:AIは平均的な答えを返す傾向があり、独創性や動機づけは人間にしか持てないと考えられる。ただし発想法の一つに「異種の結合」があるが、その程度ならばAIも可能と思われる。
AI時代の過渡期にある現在、開発・教育・倫理の三位一体で課題解決に挑む必要性が再確認されるセッションとなりました。
続いて、ポスター発表の概要をライトニングトークで紹介していただきました。ポスター発表の詳細は、
こちらをご覧ください。
オンライン参加者はここで終了し、現地会場では第3部として「ポスターセッション」が続きました。ポスター前では熱心な議論が繰り広げられ、参加者同士の交流も盛況でした。また、参加者と講師の投票によるポスター発表表彰も行われました。受賞された皆様おめでとうございます!!
- 【最優秀賞】[P-3]生成AIと人のハイブリッド評価を活用した文書品質向上活動 髙木陽輔 (愛三工業)
- 【審査員特別賞 (高橋賞)】[P-2]指摘数遷移から読み解く効果的な週次報告書改善アクション 山田竜也 (愛三工業)
- 【審査員特別賞 (渡邉賞)】[P-3]生成AIと人のハイブリッド評価を活用した文書品質向上活動 髙木陽輔 (愛三工業)
- 【審査員特別賞 (大島賞)】[P-6]システム開発文書品質モデルに基づく生成AIによる文書評価における例文情報追加による影響 藤田悠(長野工業高等専門学校)
(最優秀賞・渡邉賞:左から渡邉氏、髙木氏、塩谷氏)

(高橋賞:左から山田氏、高橋氏)
(大島賞:左から藤田氏、大島氏)

次回も、多くのポスター発表のご応募をお待ちしております。
最後に参加者にいただいたアンケート結果を示します。18名の方から回答があり、多くの参加者から「満足」「来年も参加したい」との声をいただきました。
ご記入いただいたコメントの一部を抜粋します。
- 技術文書の基本テクニカルライティングから最新のAI活用の動向、事例まで幅広く知識に触れることができました。
- 渡辺雅子氏の講演が一番興味深かったです。論理的であることは非常に重要視される分野だと思っていましたが、"論理的"が人によって異なるというのはカルチャーショックで、とても勉強になりました。持ち帰って社内でも共有します。
- 久しぶりに対面形式で参加したが、リアルトークから得られる情報がありがたかった。特に今回は、関心のある「論理」と「コミュニケーション」にフォーカスされていたので、業務への好影響を実感できた。
- 生成AIに関する展望、課題などをお聴きしたかったので、満足感は高いです。AI関係の情報が増えてきている点で満足です。
- これだけ技術情報に特化した情報交換の場は稀なので、大変ありがたいです。
- 皆さんの熱心さを肌で感じることが出来た。ポスター発表、リアルにポスターを見ながら解説を伺うことが出来たのがよかった。
高い評価をいただき、運営一同、心より感謝申し上げます。
本大会の開催にあたり、ご参加くださった皆様、講演者の方々、そして運営を支えてくださった関係者の皆様に心より感謝申し上げます。ASDoQは、本大会で得られた知見や交流をもとに、今後の活動をさらに発展させてまいります。
次回のASDoQ大会は、2026年10月23日(金)、名古屋大学で開催予定です。次回もぜひご期待ください。