2018年5月25日に,2018年度総会・第18回研究会を名古屋大学にて開催しました.
はじめに,2018年度総会として,2017年度の報告,2018年度の計画について事務局から説明があり,参加者の皆さんから承認をいただきました.
次に,第18回研究会を行いました.計算機処理による分析の事例として,粕渕清孝さんが「自然言語処理によるシステム開発文書品質改善の試み」について,ご発表くださいました.レビューの効率化のために,レビューで用いられた語句を分析して,使われている語句を次のレビューに生かす取り組みについて,紹介してくださいました.
引き続き,ASDoQ大会2017にて受賞したポスター発表から,小林 直子さんが「文書品質モデルを活用した品質可視化の試み-レビュー情報をプロジェクトの振り返り活動へ活かす-」についてご発表くださいました.ドキュメントの欠陥情報を次の開発に活かすために,ASDoQの文書品質モデルでドキュメントの欠陥情報を分析し,その分析の有効性を評価した取り組みを紹介してくださいました.
最後に,ワークショップとして,栗田太郎さんが「読みの論理のワークショップ~「国語」から開発文書の品質を考える~」について,参加者による演習や,ペアでのディスカッションを含めて行いました.文書を読むときの工夫や振る舞い,傾聴のテクニック,ワークショップの要素などを紹介してから,演習を行いました.演習では,文書を読むときに各自がどのような工夫をしているかを振り返ってから,評論文を実際に読んで自分自身の行動を観察して,それをペアの相手と情報交換しました.文章を分析的に読む方法などを考えました.
今年度も研究会,ワークショップ,ASDoQ大会を計画しています.皆さんからのご意見やご要望を取り入れながら進めていきたいを思いますので,どうぞよろしくお願いします.
2018年3月22日に,大阪電気通信大学 寝屋川駅前キャンパスにて,ASDoQ第17回研究会を開催しました.今回の研究会では,ASDoQ大会2017で優秀ポスターに選ばれた2件のポスターに関する発表と言語処理技術に関連する研究のワークショップを行いました.
ASDoQ大会2017のポスター発表に関する発表に先立ち,ASDoQ大会2017の実施報告を運営委員の塩谷が発表しました.参加者の皆さんからもご意見をいただき,印象に残った点や,各講演のポイントなどを情報交換しました.
次に,ASDoQ大会2017のポスター発表にて最優秀賞を受賞した,大阪電気通信大学教育開発推進センターの齊尾 恭子さんに,以下の発表に関する詳しい講演をしていただきました.
齊尾 恭子(大阪電気通信大学),竹内 和広(大阪電気通信大学),森 幸治(大阪電気通信大学),『「言語技術トレーニング」を活用した技術者養成に向けた大学初年次キャリア教育の実践』
さらに,審査員個人賞(三森賞)を受賞した大阪電気通信大学大学院の間嶋義喜さんに,以下の発表についての講演していただきました.
間嶋義喜(大阪電気通信大学大学院),大賀賢志(大阪電気通信大学大学院),竹内和広(大阪電気通信大学),同一機能をもつプログラム構造の類似性視覚化の検討
次に,「ソフトウェア開発文書分析にむけた言語解析ツール活用の実践」として,参加者の皆さんが実際にオープンソースを使用して言語解析を体験するワークショップを行いました.使用したプログラムは次の通りです.
・形態素解析エンジン MeCab
・係り受け解析器 CaboCha
・統計分析ソフト R(+グラフ生成プラグイン igraph)
はじめに,長野高専の藤田が「ソフトウェア開発文書の評価における汎用言語解析ツールの可能性」として,自然言語処理の基礎的な要素ツールを実際にインストールして実行して体験してみる発表を行いました.
次に,大阪電気通信大学の竹内 和広さんが,「プログラムの説明概念整理による辞書構築とその活用」として,情報分野に特化した辞書の作り方を解説しました.そして,参加者と一緒に手を動かしながら,実際に作った情報分野の辞書を用いて,複数の専門用語を入力してそれらの関係をグラフ化して可視化する演習を行いました.このようなグラフ化は、文書品質や専門概念理解の計量評価の基準となることが期待されます.
開発文書を取り巻く,技術者教育や言語処理技術について,具体的な事例や実践を交えて体験することができました.
2017年11月2日に,名古屋大学にてASDoQ大会2017を開催しました.今回の大会では,『 文書品質にとって技術とはなにか~文書品質から開発技術を見直そう~ 』をテーマに,文書品質の視点から,システム開発に必要な技術を考え,開発力を幅広く向上させるための議論の場としました.
第1部のチュートリアル1では, 鈴木 史恵氏が「学校教育におけるライティングの現実と書く力を伸ばす方法」のタイトルでご講義くださいました.初等教育,中等教育,高等教育における国語の位置づけや今後の国語教育の方向性を解説されました.与えられた写真から感じることを述べる問題や,記述問題を含むセンター試験といった大学入試変化などと共に,学校教育が変わることを示唆されました.「無人島に行くときに持っていくもの」を述べ,その記述をもとにしてディスカッションするといった,ライティングスキル向上のための演習も行いました.
(チュートリアル1:鈴木史恵氏)
並行して行ったチュートリアル2では,酒勾 寛氏が「仕様の位置付けと厳密な記述」のタイトルでご講義くださいました.仕様とは何か,さらにその厳密性が開発のQCDに良い影響を与えること,について事例と分析を交えて解説されました.日本語や仕様定義のあいまいさを事例を用いて紹介し,形式記述によるあいまいさのない,厳密な表し方を詳解してくださいました.私たちは,日頃見逃しがちなあいまいさを振り返ることができました.
(チュートリアル2:酒匂寛氏)
第2部の招待講演1では,三森ゆりか氏が「社会人に必要な言語教育」をテーマに,文書技術の重要性と必要性をお話しくださいました.そして,国旗のデザインを例に参加者に質問を投げかけながら,情報伝達のための物事のとらえ方やまとめ方の技術をご教示くださいました.参加者は,大(概要)から小(詳細)といった空間配列の要素に応じて説明することで,的確に情報を伝達できる方法を学びました.参加者に質問を投げかけ,参加者からの発言を受けてより深く切り込んでいく進め方も新鮮でした.
(招待講演1:三森ゆりか氏)
招待講演2では,高田 広章氏が「ソフトウェア設計書には何をどのように書くべきか? -リアルタイムOS開発の経験から-」のテーマでお話しくださいました.昔に一度誤った設計を再び思いつき,実装途中にその誤りに気づくといった無駄をしたエピソードを語られました.今では,最終的な設計書になるまでに三倍の量の文書を書かれているそうです.設計根拠や採用しなかった設計情報を書いておくことは,自分のためにも重要であるとの話に,参加者の多くの方がうなずいていました.組み込み開発の分野で実際に使われる用語もそのままで,開発現場の技術者にとっては,共感することが多い内容でした.
(招待講演2:高田 広章氏)
第2部の講演会の後半は,ご講演者4名に三森利昭氏を交え,パネルディスカッションを行いました.参加者からの疑問にそれぞれの立場や経験からお答えくださいました.
(パネルディスカッションの様子:左端はモデレータの栗田太郎さん)
引き続いて行ったポスター発表では,7件の文書品質に関わる取り組みの発表がありました.高等教育,言語処理,モデル活用,レビューなど,様々な切り口から開発文書の品質向上に取り組む事例が紹介され,参加者共に議論しました.
ポスター発表では参加者の投票による表彰を行いました.齊尾恭子さんらが最優秀賞を受賞されました.
(最優秀賞:齊尾 恭子さん)
最優秀賞の齊尾恭子さんらには副賞として,以下の2冊の書籍が贈られました.
・三森ゆりか(著)「大学生・社会人のための言語技術トレーニング」
・阿部 圭一・ 冨永 敦子(著)「「伝わる日本語」練習帳」
また,本日の講演者を審査員とする賞の表彰もありました.審査員の最多得票を得た審査員特別賞には,小宮山 知恵さんらが選ばれました.
(審査員特別賞:小宮山 知恵さんと小林直子さん)
さらに,各審査員による審査員個人賞の発表もあり,以下の方々に、それぞれ個人賞が贈られました.
審査員個人賞には,以下のような各審査員の著書や推薦書が,審査員の直筆サイン入りで贈られました.
・鈴木賞:野矢 茂樹(著)「大人のための国語ゼミ」
・酒匂賞:マイケル ジャクソン(著),玉井 哲雄/酒匂 寛(訳)「ソフトウェア要求と仕様―実践、原理、偏見の辞典」
・三森賞:三森ゆりか(著)「大学生・社会人のための言語技術トレーニング」
・高田賞:坂村 健(監修),高田 広章(編) 「μITRON4.0仕様 Ver.4.02.00」
参加者の方にいただいたアンケート結果を示します. アンケート結果
今回のASDoQ大会にご参加くださった皆さん,ご講演者の方々,またASDoQ大会開催に内外からご協力,ご支援,ご後援くださった方々に感謝いたします.ASDoQは,講演で得られた知見や,ポスター発表で紹介された取り組み,また参加者の方々との有意義な議論などの本大会の結果を,今後の研究会活動に活かしていきます.