2019年10月25日に,名古屋大学 野依記念学術交流館にてASDoQ大会2019を開催しました.
最近は,機械学習をはじめとするAI(人工知能)技術の急速な発展が続いています.そこで,今回の大会では『これからのシステムと文書技術への要求と品質 』をテーマに,開発文書のあり方やその品質を高めるヒントを探りました.
第1部は,2件のチュートリアルを並行で開催しました.
チュートリアル1では, 町田 欣史 氏(NTTデータ)が「テスト技術者の視点で文書をレビューする」のタイトルでご講義くださいました.ソフトウェアテストの技法や観点を使って設計書を読み解き,設計書の「抜け」や「漏れ」を見つけるためのテクニックをご紹介いただきました.
(チュートリアル1:町田 欣史 氏)
チュートリアル2では,乙武 北斗 氏(福岡大学)が「ソフトウェア技術者のための自然言語処理技術」のタイトルでご講義くださいました.ソフトウェア技術者のための自然言語処理入門として,解析技術,言語リソースおよび文書分類に焦点を当て説明いただきました.形態素解析や係り受け解析のツールは数多くありますが,それぞれの特性を解説いただき知ることができました.また昨今では深層学習により文脈まで理解した解析ができるようになっているとのことで,文書品質の機械的な測定の可能性が示唆されました.
(チュートリアル2:乙武 北斗 氏)
第2部は講演のセッションです.最初に,プログラム委員長の栗田さんから,申し込み時のアンケート分析結果と今回のプログラムへの想いが語られ,続いて3件の講演が行われました.
基調講演では,山本修一郎 氏(名古屋大学)が「「要求」の40年(1979~2019) 過去・現在・未来」のテーマで研究の集大成を概観されました.電電公社の時代からの要求工学の研究史を振り返り,最新のDX時代の要求文書までが語られました.今までは要求を定義してからシステムを作り上げてきましたが,DX時代にレガシーシステムを作り直す際には,要求仕様書が残されていない場合が多くあります.そこで今後は,既存システムから要求を生み出す「逆要求分析」がキーワードになるとのことです.
(基調講演:山本修一郎 氏)
招待講演では,中西 恒夫 氏(福岡大学)が「プロダクトライン開発におけるNLP応用」のテーマでお話しくださいました.プロダクトライン開発パラダイムは,製品間のコア資産を生成し再利用することで開発効率を向上する開発思想です.その技術内容と現状の課題を解説いただきました.その導入にあたっては,自然言語で記述された,膨大かつ複雑な既存の開発文書を読み解いて整理する必要があり,それに要する工数が導入時の障壁になりがちとのことです。この課題を解決するために,自然言語処理技術(NLP: Natural Language Processing)を応用して作業を部分的に自動化する研究についても,ご紹介いただきました.
(招待講演:中西 恒夫 氏)
特別講演では,桑島 洋 氏(株式会社デンソー)と中江 俊博 氏(株式会社デンソー)が 「セーフティクリティカルな機械学習システムの開発における課題と業界動向」のテーマでお話しくださいました.機械学習システムの自動車への導入における安全担保は重要な課題です.にもかかわらず,現状明確な指針はなく,各国で議論がなされているとのことです.機械学習モデルは訓練データを基に作成されます.しかし,その中身がブラックボックスのままでは網羅的に振る舞いを保証できません.そのため,開発プロセスでの説明責任の重要度が増すとのことです.さらに,訓練データの内容や機械学習モデルの表現方法・検証方法が今後求められていくとのことです.
(招待講演:中江 俊博 氏)
(招待講演:桑島 洋 氏)
第3部のポスター発表では,8件の文書品質に関わる取り組みの発表がありました.レビュー,教育,深層学習など様々な切り口から開発文書の品質向上に取り組む事例が紹介され,参加者共に議論しました.講演者やチュートリアル講師も参加されて,参加者との交流も行われていました.
ポスター発表では参加者の投票による最優秀賞と,審査員の投票による審査員特別賞,各審査員による審査員個人賞を表彰しました.
審査員には,今回講演いただいた方々にお願いしました.
●最優秀賞,審査員個人賞(町田欣史氏による):
『「開発文書レビュー支援ツール」による仕様書・設計書起因問題の撲滅(成果報告)』 金子 隆氏(富士通株式会社)
(最優秀賞,審査員個人賞:金子 隆氏)
金子 隆氏には,審査員個人賞の副賞として,町田氏が推奨する以下の書籍が贈られました.
NTTソフトウェアイノベーションセンタ、NTTデータ(著)「ビジネスルールを可視化する 要件定義の図解術」
●審査員特別賞,審査員個人賞(中西恒夫氏による):
『名詞句の分散表現を利用した開発文書品質測定』 荒木 誠氏,藤田 悠氏(長野工業高等専門学校)
(審査員特別賞:荒木 誠氏,藤田 悠氏)
荒木 誠氏と藤田 悠氏には,審査員個人賞の副賞として,中西氏が推奨する以下の書籍が贈られました.
安野光雅(著)「日本の名随筆89 数」
●審査員個人賞(山本修一郎氏による):
『コーディングのための英語基礎力向上の取り組み』 牧志孝俊氏(株式会社情報システムエンジニアリング)
[副賞] (山本氏による推奨図書) 山本修一郎(著)「要求開発の基礎知識 要求プロセスと技法入門」
(審査員個人賞:牧志孝俊氏)
●審査員個人賞(乙武北斗氏による):
『ソフトウェア開発文書作成力養成における導入での気づきを共有するグループワークの試み』 藤田 悠氏(長野工業高等専門学校)
[副賞](乙武氏による推奨図書) グラム・ニュービッグ(著)「自然言語処理の基本と技術」
(審査員個人賞:藤田 悠氏)
●審査員個人賞(桑島洋氏と中江俊博氏による):
『DSQI(Diagnosis for Specification Quality Improvement)~仕様書品質改善のための診断~』伊藤収氏,内野将輝氏,岡田匡史氏,安田正実氏,奈良慶之氏(株式会社ベリサーブ 中部AM事業部)
[副賞] (桑島氏と中江氏による推奨図書) 日本ディープラーニング協会 (監修), 日経クロストレンド (編集)「ディープラーニング活用の教科書」
(審査員個人賞:伊藤収氏,内野将輝氏,岡田匡史氏,安田正実氏)
最後に,参加者にいただいたアンケート結果を示します.
今回のASDoQ大会にご参加くださった皆さん,ご講演者の方々,またASDoQ大会開催に内外からご協力,ご支援,ご後援くださった方々に感謝いたします.ASDoQは,講演で得られた知見や,ポスター発表で紹介された取り組み,また参加者の方々との有意義な議論などの本大会の結果を,今後の研究会活動に活かしていきます.
2019年8月23-24日に京都市にて,ASDoQサマーワークショップ2019を開催しました.
2019年6月28日に、令和初の2019年度総会・第21回研究会を大崎ウエストギャラリー(東京都品川区)にて開催しました。
しかし、ルールベースのため指摘の質に改善の余地があるそうです。具体的には下記です。