山本 修一郎
この連載コラム「山修の開発文書品質入門」では,開発文書に携わる皆さんに役立ちそうな開発文書の品質につながる知識を分かりやすく解説します. バック・ナンバ |
ASDoQでは現在,システム開発文書品質とは何か、その品質特性にはどのようなものがあるかを定義する活動を進めています.
本稿では,システム開発文書の中でも,文書としてとくに大きな役割を担う要求文書の品質に関して,これまで研究されているものを紹介します.
前稿でも紹介した国際要求工学委員会(IREB)[1]は,要求文書に関連する教育単位(EU:Education Unit)を定めています.
その中の「要求の文書化(EU4)」には,教育目標として「要求文書の品質基準(EU4.5)」(要求文書の品質を活用できる)が設定されています.今回は,IREBが定義する「要求文書の品質基準」とはどのようなものかを,解説します.
IREBは,要求文書が満たすべき品質基準として,IEEE std.830-1998 [3] が推奨する次の4項目を参照しています[1][2].
さらに,要求文書は後続する開発工程の基礎となるので,要求文書が明確な構造をもつ必要があるとしています[4].
以下に,それぞれの項目を説明します.
要求文書が明確で一貫しているためには,個別の要求が明確で一貫していることが必要です.また,個別の要求が互いに矛盾していないことが必要です.
そのために,要求文書と要求に一意な識別子を付与しておきます.これによって,要求文書と要求との間を矛盾なく明確化できます.
ここで,「明確性」と「一貫性」とは,それぞれ次のように定義します.
【明確性】 要求が異なる複数の意味に解釈されないとき,この要求は明確である.
【一貫性】 異なる要求が互いに矛盾しないとき,これらの要求は一貫している.
プロジェクトの進行に従って,要求の変更・追加・削除が発生するので,要求文書が容易に拡張できるようになっている必要があります.したがって、要求文書の構造は修正、拡張が容易である必要があります.
要求文書が完全であるためには,次のことが必要です.
また,要求文書の様式面での完全性としては,次のことが必要です.
要求文書と、業務プロセスやテスト計画・設計書などの他の文書との関係に基づく追跡性があることは,要求文書の重要な品質基準です.
明確な構造を持つ要求文書では,必要な部分を選択して読むことができます.そのため可読性を向上できます.明確な構造の要求文書を作成するためには,たとえば,IEEE std.830-1998が推奨するソフトウェア要求仕様の標準的な構成例などが利用できます.