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投稿日時 2020-06-19 13:50:31 (11407 ヒット)

 2020年6月12日16時から18時に、2020年度総会報告と第23回研究会を開催しました。今年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応によりオンライン(Zoom)にて行いました。

 
最初に、総会報告を行いました。
2019年度の事業報告と決算報告、2020年度の事業計画と収支計画については、事前にWebでご投票を頂きました。その結果、総会の成立、2019年度報告、2020年度計画が承認されたことを報告しました。
 
2020年度の研究会活動は、ASDoQ大会を含めて全てオンラインで開催する予定です。初めての試みですので、ご協力くださいますようお願いします。
 
総会報告に続いて、第23回研究会を行いました。
今回は、「リーディングスキルから考える文書品質の向上策」をテーマに実施しました。
 
ASDoQはシステム開発文書品質を研究する会です。書く能力(ライティングスキル)と読む能力(リーディングスキル)では、主にライティングスキルに関心を持ってきました。しかし、新井紀子先生(国立情報学研究所 教授)が書かれた2冊の著書(「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」「AIに負けない子どもを育てる」いずれも東洋経済新報社 )では、リーディングスキルの低下が取り上げられていました。
 
そもそも、文書品質は読み手が決めると、ASDoQでは考えてきました。そこで、今回は、リーディングスキルについて、Zoomの投票機能やブレイクアウトルーム機能、チャット機能を使い、オンラインでの意見交換を行いました。
 
参加者の多くがテレワークをされており、そこで感じたことを共有しました。テレワークにより、情報共有が口頭やメールではなくチャットに移行している方がいらっしゃいました。短い単語のやりとりをしがちであるチャットは、素早く意見交換できるメリットがあります。しかし、理解せずに単語だけを追ういわゆるAI読みに陥りがちであることなどが指摘されました。以下に、交換された意見を列挙します。
 
■リーディングスキルが低いと感じたきっかけ
 ・チャット普及により気づかないうちにAI読みをしている
 ・長い文書を読むのが苦痛である
 ・図や表が無いと理解しづらい
 ・主語が無い文書を読みにくいと思う
 ・目的語を正しく理解できないと気づく
 ・二重否定を多用されると理解が難しい
 
新井先生らの一般社団法人「教育のための科学研究所」は、RST(リーディングスキルテスト)を開発して、読む能力の測定に取り組まれています。今回の研究会では、それに倣い、RSTを自作したり、その問題をレビューしたり、自作した問題を解いたりして、リーディングスキルに対する理解を深める試みをしました。良問を作ることは中々に難しく、レビューは大いに盛り上がりました。
 
■RSTの作問/レビュー/問題を解くワークでの意見
 ・読解力の気づきになり、社内教育として役に立ちそう
 ・テスト対策をされてしまい、意図した結果を得られない可能性があるので工夫が必要
 ・読み手が読み間違えない文章を記述するための力になりそう(図や表を活用させる等)
 
総会と研究会後の交流会も、今回初の試みとしてオンラインにて開催しました。各自お酒とおつまみを持参し、画面に向かって文書品質の未来について語り合いました。
 
テレワークの普及は、新しい文書品質の在り方を模索する日々の始まりを示唆しているのかもしれません。本年度もどうぞよろしくお願い致します。


投稿日時 2019-11-01 15:47:52 (12763 ヒット)

2019年10月25日に,名古屋大学 野依記念学術交流館にてASDoQ大会2019を開催しました.

最近は,機械学習をはじめとするAI(人工知能)技術の急速な発展が続いています.そこで,今回の大会では『これからのシステムと文書技術への要求と品質 』をテーマに,開発文書のあり方やその品質を高めるヒントを探りました.

第1部は,2件のチュートリアルを並行で開催しました.

チュートリアル1では, 町田 欣史 氏(NTTデータ)が「テスト技術者の視点で文書をレビューする」のタイトルでご講義くださいました.ソフトウェアテストの技法や観点を使って設計書を読み解き,設計書の「抜け」や「漏れ」を見つけるためのテクニックをご紹介いただきました.

 

(チュートリアル1:町田 欣史 氏)

チュートリアル2では,乙武 北斗 氏(福岡大学)が「ソフトウェア技術者のための自然言語処理技術」のタイトルでご講義くださいました.ソフトウェア技術者のための自然言語処理入門として,解析技術,言語リソースおよび文書分類に焦点を当て説明いただきました.形態素解析や係り受け解析のツールは数多くありますが,それぞれの特性を解説いただき知ることができました.また昨今では深層学習により文脈まで理解した解析ができるようになっているとのことで,文書品質の機械的な測定の可能性が示唆されました. 

 

(チュートリアル2:乙武 北斗 氏)

 

第2部は講演のセッションです.最初に,プログラム委員長の栗田さんから,申し込み時のアンケート分析結果と今回のプログラムへの想いが語られ,続いて3件の講演が行われました.

基調講演では,山本修一郎 氏(名古屋大学)が「「要求」の40年(1979~2019) 過去・現在・未来」のテーマで研究の集大成を概観されました.電電公社の時代からの要求工学の研究史を振り返り,最新のDX時代の要求文書までが語られました.今までは要求を定義してからシステムを作り上げてきましたが,DX時代にレガシーシステムを作り直す際には,要求仕様書が残されていない場合が多くあります.そこで今後は,既存システムから要求を生み出す「逆要求分析」がキーワードになるとのことです.

 

(基調講演:山本修一郎 氏)

招待講演では,中西 恒夫 氏(福岡大学)が「プロダクトライン開発におけるNLP応用」のテーマでお話しくださいました.プロダクトライン開発パラダイムは,製品間のコア資産を生成し再利用することで開発効率を向上する開発思想です.その技術内容と現状の課題を解説いただきました.その導入にあたっては,自然言語で記述された,膨大かつ複雑な既存の開発文書を読み解いて整理する必要があり,それに要する工数が導入時の障壁になりがちとのことです。この課題を解決するために,自然言語処理技術(NLP: Natural Language Processing)を応用して作業を部分的に自動化する研究についても,ご紹介いただきました.

 

(招待講演:中西 恒夫 氏)

特別講演では,桑島 洋 氏(株式会社デンソー​)と中江 俊博 氏(株式会社デンソー​)が 「セーフティクリティカルな機械学習システムの開発における課題と業界動向」のテーマでお話しくださいました.機械学習システムの自動車への導入における安全担保は重要な課題です.にもかかわらず,現状明確な指針はなく,各国で議論がなされているとのことです.機械学習モデルは訓練データを基に作成されます.しかし,その中身がブラックボックスのままでは網羅的に振る舞いを保証できません.そのため,開発プロセスでの説明責任の重要度が増すとのことです.さらに,訓練データの内容や機械学習モデルの表現方法・検証方法が今後求められていくとのことです.

 

(招待講演:中江 俊博 氏)

(招待講演:桑島 洋​ 氏)

 

第3部のポスター発表では,8件の文書品質に関わる取り組みの発表がありました.レビュー,教育,深層学習など様々な切り口から開発文書の品質向上に取り組む事例が紹介され,参加者共に議論しました.講演者やチュートリアル講師も参加されて,参加者との交流も行われていました. 

ポスター発表では参加者の投票による最優秀賞と,審査員の投票による審査員特別賞,各審査員による審査員個人賞を表彰しました.

審査員には,今回講演いただいた方々にお願いしました.

●最優秀賞,審査員個人賞(町田欣史氏による):

『「開発文書レビュー支援ツール」による仕様書・設計書起因問題の撲滅(成果報告)』 金子 隆氏(富士通株式会社)

 

 (最優秀賞,審査員個人賞:金子 隆氏)

金子 隆氏には,審査員個人賞の副賞として,町田氏が推奨する以下の書籍が贈られました.

 NTTソフトウェアイノベーションセンタ、NTTデータ(著)「ビジネスルールを可視化する 要件定義の図解術」

 

●審査員特別賞,審査員個人賞(中西恒夫氏による):

『名詞句の分散表現を利用した開発文書品質測定』 荒木 誠氏,藤田 悠氏(長野工業高等専門学校)

 

 (審査員特別賞:荒木 誠氏,藤田 悠氏)

荒木 誠氏と藤田 悠氏には,審査員個人賞の副賞として,中西氏が推奨する以下の書籍が贈られました.

 安野光雅(著)「日本の名随筆89 数」

 

●審査員個人賞(山本修一郎氏による):

『コーディングのための英語基礎力向上の取り組み』 牧志孝俊氏(株式会社情報システムエンジニアリング)

  [副賞] (山本氏による推奨図書) 山本修一郎(著)「要求開発の基礎知識 要求プロセスと技法入門」

 

 (審査員個人賞:牧志孝俊氏)

●審査員個人賞(乙武北斗氏による):

『ソフトウェア開発文書作成力養成における導入での気づきを共有するグループワークの試み』 藤田 悠氏(長野工業高等専門学校)

  [副賞](乙武氏による推奨図書)  グラム・ニュービッグ(著)「自然言語処理の基本と技術」

 

 (審査員個人賞:藤田 悠氏)

●審査員個人賞(桑島洋氏と中江俊博氏による):

『DSQI(Diagnosis for Specification Quality Improvement)~仕様書品質改善のための診断~』伊藤収氏,内野将輝氏,岡田匡史氏,安田正実氏,奈良慶之氏(株式会社ベリサーブ 中部AM事業部)

  [副賞] (桑島氏と中江氏による推奨図書)  日本ディープラーニング協会 (監修), 日経クロストレンド (編集)「ディープラーニング活用の教科書」

 

  (審査員個人賞:伊藤収氏,内野将輝氏,岡田匡史氏,安田正実氏)

 

最後に,参加者にいただいたアンケート結果を示します.

今回のASDoQ大会にご参加くださった皆さん,ご講演者の方々,またASDoQ大会開催に内外からご協力,ご支援,ご後援くださった方々に感謝いたします.ASDoQは,講演で得られた知見や,ポスター発表で紹介された取り組み,また参加者の方々との有意義な議論などの本大会の結果を,今後の研究会活動に活かしていきます.


投稿日時 2019-08-25 20:21:23 (7395 ヒット)

 2019年8月23-24日に京都市にて,ASDoQサマーワークショップ2019を開催しました.

 
毎年ASDoQでは、夏の京都で合宿形式のワークショップを開催しています.鴨川のせせらぎに涼しさを感じつつ,開発文書について熱い議論を交わしています.
今年のサマーワークショップでは,ASDoQが提唱している文書品質モデルの使い方ガイドライン作成に向けて,例とする開発文書を用いて,指摘,文書品質との関係づけ,改善を,モブワークの方式で実施しました.
◆システム開発文書品質モデルについてはこちら
 
例とした開発文書は,SESSAMEの「話題沸騰ポット要求仕様書 (GOMA-1015型) 第6版」(最新版は第7版)です.ワークの対象として「6.エラー検知」の章を選びました.
 
ワークは,昨今話題になっているモブワークの方式で行ないました.
◆モブワークとは
3~4人でチームを組み,皆で同じ表示を見ながら課題に取り組みます.
PCを操作して入力する人は1人(ドライバー)です.他の人はナビゲーターとなり意見を出し合います.意見には,まず,肯定的な反応をします.すると,どんどん意見が出てきます.全員参加により,1人で作業するよりも早くて完成度が高いアウトプットが出せます.
今回は,Googleドキュメントを用いて、各チームで1つの文書を共有しスクリーンに投影して同じ画面を見ながら、指摘や改善の作業を進めました.
最後に皆でバンザイをして,達成を祝います.最初は恥ずかしかったのですが,やってみると,一体感を得られますし,ワークの疲れもとれて爽快でした.
 
以下は3チームに分かれモブワークを実施した振り返り(KPT:Keep, Problem, Try)の中で,モブワーク自体に対する意見の抜粋です.
◆良かった点,継続したい点(Keep)
・記述品質(品質特性での可読性や理解容易性や論理性)に着目して改善しようとすると、情報品質(品質特性での完全性、とくに正確や妥当)の不備に気づけた.
・チームで理解を深めて共感しながら進めることでチーム力が向上した.
・Googleドキュメントを使うと,皆で並行作業できた.
・ナビゲーターが議論中、ドライバーはリファクタリング作業ができる(文書をレビューできる).
 
◆改善したい点,良くなかった点(Problem)
・一つの点に議論が集中して,当初計画した分量の文書を処理するうえで,計画よりも時間がかかった.
・Googleドキュメントを使ったので,全員がドライバーになりファイル操作をした時間帯があり,ドライバーとナビゲーターの境目が曖昧になった.これは,モブワークの基本的なやり方とは,ズレている.ただし,記述改善の説明や理由を共有することがはできていたので,このようなモブワークのやり方にも価値があると感じた.
 
◆次に挑戦すること(Try)
・作業の効率がよい作業の進め方を決めて,進行のスケジュールを定めて行う.
・振り返りの結果を,次回のモブワークに適用してモブワークのやり方をブラッシュアップする.
・モブワークの原則に従い,皆で同じ画面を見て作業する.
 
各チームの発表の様子を写真でご紹介します.
 
◆チーム1
 
話題沸騰ポットは水温が一定以上上昇するとエラー検出する仕様です.チーム1は,水温検知のサンプリング間隔の記述漏れに気づき,仕様書に書かれているグラフの修正もしました.
 
◆チーム2
 
元の文書は多様な情報がフラットに書かれていました.チーム2は,要求仕様書の章立てを細かくし,さらに,各章の文章に適切に表を挿入しました.これらのことで,要求仕様で伝えたいことが構造化され,文書品質の論理性が高まりました.
 
◆チーム3
 
元の文書は,一般的ではない用語が使われていました.チーム3は,用語を変更して,本質をわかりやすく伝える努力をしました.
 
 このように,それぞれのチームは様々な議論を展開しました.そして,各チームに共通して以下の点を認識しました.
・1つ1つの文を査読する際,章全体を意識して行うことで,文書品質の論理性を高めることができる
・長文で記述すると,読み取るコストが増える.文書品質の可読性と理解容易性を高めることが必要.そのように丁寧に文書を書くと時間がかかるかもしれないが,開発全体で見ると,読み取る時間が減り誤りも起こりにくくなるので,にコスト削減に繋がる
・助詞や接続詞を適切に使う努力をすると,文書品質の論理性が高まる.
 
最後にバンザイすることで達成感が得られます(これもモブワークならでは).
 
今回の討議結果を基に,文書品質モデルのガイドライン作成を進める予定です.

 


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