2013年6月28日~29日に,長野県松本市の美ヶ原温泉 ホテル翔峰にて,ASDoQサマーワークショップ2013を開催しました.
今回のワークショップでは,「ソフトウェア要求仕様書」と「ソフトウェア・アーキテクチャ設計書」を題材として,システム開発文書に求められる品質特性を明らかにすることをテーマに掲げ,参加者全員で議論を行いました.
文書の品質特性というと文書の構造や文法,文章表現などいろいろな候補が挙げられますが,今回は,文書の利用者(読み手)の立場から文書品質を議論することにしました.
第1日:6月28日 13:30-17:00
以下の手順を念頭に置きつつ,「ソフトウェア要求仕様書」を対象文書として議論を始めました.
(Step1) 対象文書の読み手を列挙し整理する
(Step2) 読み手の立場で文書の目的を整理する
(Step3) 読み手の立場で文書に求める要件を列挙し整理する
ソフトウェアの受託開発企業がソフトウェア要求仕様書を作成する場合,その読み手として,以下が挙がりました.
システム開発文書に求められる品質特性(システム開発文書の満たすべき性質)を探るうえで,まずは「どのようなシステム開発文書で困っているのか」という,システム開発文書の問題を挙げてみました.参加者からは,次のような意見が出ました.
<こんな開発文書(要求仕様書)が困る!>
参加者の意見を整理するため,「システム開発文書の品質特性(満たすべき性質)」と「システム開発文書の問題」について,付せんに書き出して一つの模造紙に貼る,という作業を行いました.
品質特性はオレンジ色の付せん,問題は青色の付せんです.お互いに,ほかの人が貼った付せんを見ながら,思いついたことを追加していきました.
オレンジ色の付せん(品質特性=満たすべき性質)として,「理解容易性(わかりやすいこと)」,「納得感がある」なども挙がりましたが,納得を目指すのは理解を目指すよりも難しい,という指摘がありました.
複数の付せんをまとめるキーワードとして貼ったのが,黄色の付せんです.
第2日:6月29日 9:00-15:00
第1日に挙げられた品質特性の候補を整理し,まとめる以下の作業を行いました.
(Step4) 対象文書のシステム開発文書品質特性を整理する
まず山本 雅基さんが,「理解」と「行動」の関係について前の晩に考察したことを披露しました.
その後,システム開発文書の品質特性としてどのようにまとめればよいのか議論しました.
要求仕様の規格「IEEE 830」は,要求仕様書に「何を書けばよいのか」という記述項目と,「どのように書けばよいのか」という品質特性(満たすべき性質)を示しています.
ここで,具体的な記述項目だけでなく,「対象とする範囲を明確にする」,「目的と手段を分ける」などの,文書を理解しやすくするために必要な構造(のようなもの)もあるのではないか? という意見が出ました.
また,「システム開発文書の品質特性(満たすべき性質)」としては,まずIEEE 830に書かれている八つの品質特性(ソフトウェア要求仕様書が満たすべき品質)はそのまま当てはめられるという意見で一致しました.また,それ以外に,人間が介在する際に重要な特性として,「経済性(開発文書を読んで理解/行動するのにコストがかからないこと)」が挙がりました.その前には「理解容易性(理解しやすいこと)」がキーワードとして挙がっていたのですが,理解容易性は経済性の概念の中に含めるとし,最終的に残ったのが,経済性,というキーワードでした.
なお,IEEE 830に書かれている八つの品質特性は「正当性」,「無あいまい性」,「完全性」,「一貫性」,「順位付け」,「検証容易性」,「修正容易性」,「追跡性」ですが,用語のイメージを各自で想像するのではなく,IEEE 830に定義されている内容を改めて理解しておく必要があることを再認識しました.
参考文献
・山本修一郎;連載 要求工学 第3回 要求仕様,月刊ビジネスコミュニケーション.
http://www.bcm.co.jp/site/2004/2004De ... 04-youkyuu-kougaku-12.htm