2017年11月2日に,名古屋大学にてASDoQ大会2017を開催しました.今回の大会では,『 文書品質にとって技術とはなにか~文書品質から開発技術を見直そう~ 』をテーマに,文書品質の視点から,システム開発に必要な技術を考え,開発力を幅広く向上させるための議論の場としました.
第1部のチュートリアル1では, 鈴木 史恵氏が「学校教育におけるライティングの現実と書く力を伸ばす方法」のタイトルでご講義くださいました.初等教育,中等教育,高等教育における国語の位置づけや今後の国語教育の方向性を解説されました.与えられた写真から感じることを述べる問題や,記述問題を含むセンター試験といった大学入試変化などと共に,学校教育が変わることを示唆されました.「無人島に行くときに持っていくもの」を述べ,その記述をもとにしてディスカッションするといった,ライティングスキル向上のための演習も行いました.
(チュートリアル1:鈴木史恵氏)
並行して行ったチュートリアル2では,酒勾 寛氏が「仕様の位置付けと厳密な記述」のタイトルでご講義くださいました.仕様とは何か,さらにその厳密性が開発のQCDに良い影響を与えること,について事例と分析を交えて解説されました.日本語や仕様定義のあいまいさを事例を用いて紹介し,形式記述によるあいまいさのない,厳密な表し方を詳解してくださいました.私たちは,日頃見逃しがちなあいまいさを振り返ることができました.
(チュートリアル2:酒匂寛氏)
第2部の招待講演1では,三森ゆりか氏が「社会人に必要な言語教育」をテーマに,文書技術の重要性と必要性をお話しくださいました.そして,国旗のデザインを例に参加者に質問を投げかけながら,情報伝達のための物事のとらえ方やまとめ方の技術をご教示くださいました.参加者は,大(概要)から小(詳細)といった空間配列の要素に応じて説明することで,的確に情報を伝達できる方法を学びました.参加者に質問を投げかけ,参加者からの発言を受けてより深く切り込んでいく進め方も新鮮でした.
(招待講演1:三森ゆりか氏)
招待講演2では,高田 広章氏が「ソフトウェア設計書には何をどのように書くべきか? -リアルタイムOS開発の経験から-」のテーマでお話しくださいました.昔に一度誤った設計を再び思いつき,実装途中にその誤りに気づくといった無駄をしたエピソードを語られました.今では,最終的な設計書になるまでに三倍の量の文書を書かれているそうです.設計根拠や採用しなかった設計情報を書いておくことは,自分のためにも重要であるとの話に,参加者の多くの方がうなずいていました.組み込み開発の分野で実際に使われる用語もそのままで,開発現場の技術者にとっては,共感することが多い内容でした.
(招待講演2:高田 広章氏)
第2部の講演会の後半は,ご講演者4名に三森利昭氏を交え,パネルディスカッションを行いました.参加者からの疑問にそれぞれの立場や経験からお答えくださいました.
(パネルディスカッションの様子:左端はモデレータの栗田太郎さん)
引き続いて行ったポスター発表では,7件の文書品質に関わる取り組みの発表がありました.高等教育,言語処理,モデル活用,レビューなど,様々な切り口から開発文書の品質向上に取り組む事例が紹介され,参加者共に議論しました.
ポスター発表では参加者の投票による表彰を行いました.齊尾恭子さんらが最優秀賞を受賞されました.
(最優秀賞:齊尾 恭子さん)
最優秀賞の齊尾恭子さんらには副賞として,以下の2冊の書籍が贈られました.
・三森ゆりか(著)「大学生・社会人のための言語技術トレーニング」
・阿部 圭一・ 冨永 敦子(著)「「伝わる日本語」練習帳」
また,本日の講演者を審査員とする賞の表彰もありました.審査員の最多得票を得た審査員特別賞には,小宮山 知恵さんらが選ばれました.
(審査員特別賞:小宮山 知恵さんと小林直子さん)
さらに,各審査員による審査員個人賞の発表もあり,以下の方々に、それぞれ個人賞が贈られました.
審査員個人賞には,以下のような各審査員の著書や推薦書が,審査員の直筆サイン入りで贈られました.
・鈴木賞:野矢 茂樹(著)「大人のための国語ゼミ」
・酒匂賞:マイケル ジャクソン(著),玉井 哲雄/酒匂 寛(訳)「ソフトウェア要求と仕様―実践、原理、偏見の辞典」
・三森賞:三森ゆりか(著)「大学生・社会人のための言語技術トレーニング」
・高田賞:坂村 健(監修),高田 広章(編) 「μITRON4.0仕様 Ver.4.02.00」
参加者の方にいただいたアンケート結果を示します. アンケート結果
今回のASDoQ大会にご参加くださった皆さん,ご講演者の方々,またASDoQ大会開催に内外からご協力,ご支援,ご後援くださった方々に感謝いたします.ASDoQは,講演で得られた知見や,ポスター発表で紹介された取り組み,また参加者の方々との有意義な議論などの本大会の結果を,今後の研究会活動に活かしていきます.